人生は一番美しい童話である(63)
「…ここも目撃情報なし、か」
3人が聞き込みをはじめて4時間。未だに情報はない。あるのはトーマスの抱えた沢山の紙袋だけ。中からチョコクロワッサンを取り出しながら、セリーヌがアリーに話しかける。
「お前は何かを覚えてないのか。こう、どこかに行くとか言ってなかったのか」
「…それが全く記憶にないの。普通に家を出ただけだから」
「ちょっと待て待て待て」
トーマスが2人の前に躍り出た。
「…どういうこと? どうして昨日の現場周辺の聞き込み調査がアリーと関係があるんだよ」
2人は顔を見合わせた。
「…前の日にあそこに死体あったの、言わなかったかしら」
「忘れてた、すまん」
「いやいやいやいやいや」
トーマスがぶんぶんと頭を勢いよく振る。もげてしまいそうだなぁ、などと呑気にセリーヌは眺めていた。
「…え? なに? どういうこと?」
「だから、そういうことだよ。見つかった死体が私の失踪したと思ってた恋人だったんだよね。
びっくりすることに」
「いや、たぶん、今、僕、それ以上に驚いてるよ」
先に言ってよ、と胸に手を当てるトーマス。相当な驚きだったらしい。顔が若干青ざめている。申し訳なさを抱えながら、紙袋の中からセリーヌはメロンパンを取り出した。




