人生は一番美しい童話である(62)
「い、今そんなことは関係ないだろう! 今大事なのはアリーだ! 離せ、馬鹿野郎!」
「この腕を切られない限り、離したりしないよ!」
「そうじゃなくて!」
「…お幸せに」
「アリー!」
仲睦まじくじゃれる2人からさりげなく距離を取りながら、アリーは少し前のトーマスの質問に答えた。
「…話変わるけど。
アタシ、犯罪者が嫌いなの。
人殺しとか盗みとか、色々なのがあるけど。その存在事態が嫌いなのよ。特に人を傷つけても何も思わない"犯罪者"っていう社会的汚物がね。
勿論、警察はそれ専門の組織だから捕まえることができるわ。それから刑務所に入れることもね。
だけど。それで何になるの? それで誰かが生き返るの?
ただ犯罪者を起こした人が悠々と、遺族からの叱責も受けずに生きていくだけじゃない。死ぬべきだったのは、被害者じゃないの。そいつらなのよ。なのに、あいつらは生き長らえる。
だから私は、そいつらを見つけ出して死刑になるような細かいところまで調べあげたい。死刑なんて労力の無駄遣い反対だけど。でも人殺しが生き長らえるよりは、全然いいと思うの」
その言葉にセリーヌは深く頷いた。トーマスは何度も頭を前後に振る。腕は離さないが。
「アタシ達人間は完全じゃない。そりゃあ、欠落してるものもある。
例えば、アタシには性別がない。男でもあるし女でもある。でもその欠落したものを補えるものがある。それを認めてくれる家族、友達。彼らが認めてくれなくたって、私がそれを認めてる。
セリーヌに欠落してるのは、女子力だけどね」
ふふふと笑いながらアリーが言った。
「…失礼な! 私にだって、女子としての心構えはある!」
「その年になっても化粧しないんだから、無いでしょ! …まあ、素材がいいから必要が無いのも否めないけれど」
「…化粧しなくてこの可愛さなんて君はどこまで破壊級なんだ」
「やめなさいよ。抱き付くの、やめなさいよ!」
「僕が女子力を目覚めさせて覚醒させてあげるからね」
「…若干、方向性が違う気がするけど。頼んだわよ、トーマス」
「何で勝手に任せてるだ!」
「焦りすぎて噛み噛みなところ、本当に可愛いよ」
「これで女子力を装備したら、もう、あれね。唾つけときなさいよ、トーマス」
「2人とも、いい加減にしなさい!」
楽しい1日は始まったばかりである。