人生は一番美しい童話である(61)
「…どうしてこうなったのかしら」
アリーが呟きながら隣を見た。
「たまたまなんだから、仕方ないよね」
トーマスが満面の笑みで答える。
家を出て街へと歩いている最中、セリーヌとアリーは後ろから呼び止められたのだった。走ってくるトーマスを見て思わず「げっ」と口に出したのは、セリーヌだけではあるまい。「どこにいくの」と問いかけられ、素直に言葉を返してしまったのもセリーヌの責任ではあるまい。
「それにしてもさ、どうして昨日の現場周辺に聞き込み調査するの? 警察に言えばいいのに」
「…昨日言わない方がいいって言ったのは誰よ」
「はい、僕です」
右手をぴんと挙げてトーマスが答える。数秒おいて「…あ、そっか」と呟いた。セリーヌが呆れ顔で彼を見つめる。しかし見つめられたことに気をよくしたのか、今日一番の笑みで彼女を見返していた。
「本当にトミーはセリーヌが好きなのね」
いつの間にか渾名で呼ぶほど仲良くなっている2人を見て、セリーヌは笑った。今までこんな風に"友達"と呼べるようなものができなかった彼女にとって、それは少しあたたかくて少し儚かった。
「…出逢った時にプロポーズされたから」
セリーヌの言葉に勢いよく振り向くアリー。少し朱に染まった頬を見て内心、あと一押しだよトミーとほくそ笑む。
「今でもその気持ちは変わらないけどね!」
トーマスがセリーヌを背後から抱き締めながら言う。過剰なスキンシップに戸惑い、セリーヌはもがく顔は笑っていた。やっぱり、この2人すっかりお似合いね、と笑ったアリーに、トーマスがこっそりウインクで返した。