人生は一番美しい童話である(6)
「それにしても今日は遅い出発だったのね。しかもこんなところで時間を浪費するなんて貴女らしくないわ。どこか身体がおかしい?」
「そういうわけではない」
ルーカスの言葉にセリーヌは時計を見つめる。ここについてから10分以上座り込んでいたらしい。
「帰ろう、ルーカス。今日も獲物を見つけた」
「あら!今日は美味しいといいんだけど」
「…あれは食い物じゃない」
「でもお肉は無駄にしちゃダメよ?」
そんなどうでもいいことを話しながら砂浜を歩く。こんな風に他愛の無い普通の会話をしているときが、セリーヌにとって唯一心休まるときだった。
不意にルーカスが歩みを止めた。町の一点を見つめ続けている。セリーヌも目を凝らすが、鉄骨の森の中から何かを見つけることは難しい。
「…いけめんがいるわ」
ルーカスが何を見ているか必死に見ようとしていた彼女にとって、その言葉は全く予想打にしていなかった。その為彼女は一瞬固まり、彼女の方へとゆっくり首をまわす。
「セリーヌ、いけめんが」
「…その為に歩みを止めたのか?」
「お婿さんにいいかと思って」
「…」
セリーヌは言葉を失い、失笑した。そのままルーカスの見つめる方向へと歩みを進める。まだ何も見えない。
あと何歩歩けば彼女が見た景色を自分は見ることができるのだろうか。
たまにセリーヌは無性に悲しくなる。どれだけ一緒にいても、ルーカスが視る景色と自分の視る景色では全く違うのだ、と。