人生は一番美しい童話である(55)
アリーが見つめる先には昨日とはうってかわった光景が広がっていた。そこに彼の姿はない。
"welcome to our game BUTTERFLY n FAMILY"
でかでかと赤いスプレーで文字が刻まれているだけだった。
「BUTTERFLYって…そのまんまよね」
「…私の事か」
セリーヌが笑って言う。それは彼女に向けられた挑戦状。
「貴女の事知ってる人間が、どうして」
責める様な目をアリーは向ける。
彼女の言葉の続きをセリーヌは想像した。
「どうして私の愛した人を殺したの」
「貴女の愛する人を殺せばいいのに」
「どうして彼なの」
セリーヌは叫びだしたくなる衝動を抑える。口からぜえぜえと息が漏れる。
何故、私なんだと叫びたかった。何故、悪党が多くいる中で私に狙いを定めたのか。
答えは1つだった。彼女が考え得る中で。
「私が悪党を罰する悪党だからだ」
だから、"彼ら"は私に挑戦状を叩きつけた。私達を捕まえてみろ、と。
正しいことをしてきたはずなのに。それが裏目に出たと言うことなのか。
考え込んでいる彼女の後ろから足音が近づいていることにも、彼女は気づかなかった。
「…セリーヌ?」
その声は私が聞きなれた声ではない。しかし、よく知っている声だった。
「…何故、お前がここにいる」
そう言って彼女はゆっくりと振り返る。
「トーマス」




