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君の夢で僕は旅をする  作者: 染樹茜
人生は一番美しい童話である
54/133

人生は一番美しい童話である(54)

 車が揺れる度に身体が上下左右に揺さぶられ、アリーやトットにぶつかる。車が悪いのか運転手が悪いのか、わかったところで何もできまい。言ったが最期、一生喋れなくなるのは目に見えている。


「…アルバート。たぶん…この…車がさ…悪いと…うぷ…おもうんだけど…オレ…吐きそ」


「新車だぞ! トット! ワインとリゾットは確かに相性がいいが、車の中でそれを繰り広げるのはやめてくれよ」


「…うっぷ」


 返事の代わりにトットは窓の外を流れる景色を凝視している。その目は死の縁から逃れようともがき足掻く様子に瓜二つだ。彼は助演男優賞を貰えるだろう。もちろん、エミー賞だ。


「お願いだから、アタシの横ではやめてね。 …セリーヌ席替えなんてどう?」


 露骨な交渉をしてくる彼女を睨み付けセリーヌはため息をついた。


「万が一のことがあれば、両側からお前の膝をリゾットの皿にしてやるから安心しろ」


「セリーヌまでやめてよね! この服しか今無いんだから」


「それなら、アリーちゃん。私が新しいのをあとで買おう。だから存分にやりなさい、セリーヌ、トットくん。誰かの服が犠牲になるなら車が汚れる心配もないだろう」


「…最低な父親(ダディ)


 そう言った声色は本当に子供の口から出てきたようで、アルバートが肩を竦めて「ごめんよ、俺の愛娘(エンジェル)」と呟いた。


 そうこうするうちに窓に昨夜みた景色が流れ始める。アルバートがドーナツ屋の前に車を止め、降りて店内に入った。どうやら、ここで買い物をしている間に終わらせろよ、ということらしい。


「ドーナツでどれだけ時間が稼げるのか、見物ね」


 そう言ってルーカスは彼の背中を悠々と追いかける。


 トットはと言えば、下水口に向かって何やら悪態をついている。耳にするのも憚られる言葉のパレードに、セリーヌとアリーは耳を塞ぎながら路地裏へと急いだ。


 昨日よりは幾分、路地は明るい。そこら中に広がったゴミの山から目をそらす。


「随分とお行儀のいい浮浪者達なのね。道の真ん中にゴミを捨てちゃいけないのは知ってるみたい」


「…私達の為に、道をこしらえたように綺麗だな」


「そうだと少し、状況は変わってくるわね」


「…そうでなくても、状況は少し変わったよ、アリー」


 セリーヌは路地の奥を指差す。

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