人生は一番美しい童話である(50)
路地に3人の足音だけが響く。それは終わりへのカウントダウンのように同じテンポを刻み続ける。
「アタシみたいな男…恋しちゃいけなかったのよ。だけど、そういうのって本能的なもので抑えられるようなものじゃない」
セリーヌは下を向きながら聞く。難しいんだな、人を愛するというのは。蟻地獄のように1度填ったらなかなか抜け出せない。抜け出すことすら難しいのだ。そんな考えが頭の隅をよぎる。
「…友達を大切に思うのと1人の人をずっと思い続けるのは違うからな」
トットまでも神妙な面持ちでアリーに続いた。
「運命だと思ったの。こんなアタシでも愛してくれるなんて、奇跡だと思った」
路地の奥から風と共に轟音が響き渡ってきた。換気扇か何かの音だろうか。ビルの壁に反響して、地響きの様に身体を震わせる。
「そして、運命だと思った。アタシが棄てられたのは」
アリーの声を掻き消す様に鳴り止むことはなく一層の激しさを増す。
「だけどそれが運命じゃなくて…不都合な彼の宿命だとしたら」
換気扇の下。踞るように座り込む人影に、セリーヌとトットは足を止めた。そんなこと気にもしないで、アリーは進み続ける。
「アタシは赦さないのよ、彼を」
人影の前で立ち止まり、しゃがみこんでからまた立ち上がり、そして彼女は振り返った。
「…アタシ、赦さないわ」
それは彼に対して言われたのか、それとも彼をそこに座らせたままにした者に言ったのか。セリーヌにはわからなかったが、只1つだけ。
アリーが満面の笑みでこちらを見ていることだけは、薄ぼんやりとした世界でもはっきりとわかった。




