人生は一番美しい童話である(48)
走り出したアリーをトットとセリーヌが追う。もっとも、アリーの速度は2人よりもゆっくりなので追い抜かないようにはや歩きしているだけだが。
2人には目もくれずセリーヌが先ほど視た道を先へと進むアリーに代わって、トットが"彼"についてセリーヌに説明する。
「アリーはこの町に来る前、バーでお金を稼いでいたんだ。もちろん普通のじゃない。そういう人が集まるバーだよ」
「…そういう人?」
「アリーみたく男の人が好きな男の人さ。そのバーでアリーは一番綺麗だった。オレも1度見たことがある。お世辞でもオレはアイツを女だと思ったことはなかった。どんなに綺麗な顔をしていようともね。
だけど確かに舞台の上で、ポールの上で舞い狂う様は美しかった。誰もが彼女に釘付けだった。
中でもセドリックは、格別彼女に見惚れていた。アリーを見るために毎日高い金を払って毎日その為だけに汗水垂らして働いてた。
そんな風に自分を見てくれる存在にアリーが気づかないわけない。アイツも次第にセドリックを気にするようになって、そんで、2人はいつも一緒にいるようになった。
アリーは凄い幸せそうだった。毎日毎日帰ってくるとセドリックの話をするんだ。もう聞いたよって話を何度もね。笑っちゃうだろ。そんだけお互い本気だったんだ。
なのに」
そこでトットは一息着く。走りながらこれだけしゃべったのだ。一瞬消えた彼は、次セリーヌの前に姿を見せたとき手にペットボトルを持っていた。ぐっと喉を鳴らしながら飲む。
「なのに、アリーと出会ってから8ヶ月が過ぎた冬。
…その日アリーはクリスマスのプレゼントを買いにオレと町に出たんだ。その頃には3人で狭い家にぎゅうぎゅうになりながら住んでてさ。ちょっと出掛けてくる、なんて言って気づかれないように気を配りながらさ。
その帰り道、オレ達はセドリックを町で見たのさ。1人ふらふらと路地に入っていく彼をね。でもオレもアリーもプレゼントを買いに行くんだと疑わなかった。オレ達に会わないように回り道をしているんだと。
だけど、その日も次の日も、クリスマスも、バレンタインデーも、そうじゃない日も。セドリックは帰ってこなかった」