表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の夢で僕は旅をする  作者: 染樹茜
人生は一番美しい童話である
47/133

人生は一番美しい童話である(47)

 セリーヌはこくりと頷き、ため息をついた。それからそっと目を閉じる。敵と対峙したときは一瞬で10分先まで飛び、その過程は見ない。だから、今回のように10分間を丸々と予知したのは初めてだった。精神を集中させたのはものの5秒。しかしその5秒に10分間が詰め込まれている。彼女に襲いかかる眠気はその副作用とも言えるだろう。


「この貝殻、いたって普通だわ。これじゃないのかもしれないわね」


 アリーがぽいと後ろ手に貝殻を捨て、次の貝殻を拾い上げた。そして次々にそこにある桃色の貝殻を集め始めた。


「これも普通…こっちも…これなんかオレンジだったわ」


 ぶつぶつと呪文のように唱えながら、彼女は集めた貝殻を後ろに投げ続ける。


 未来を予知して誰かに伝えると、少しその様子は変わるのか、とセリーヌは呟いた。さっきは一発で見つけられたと言うのに、現実は時間がかかりすぎる。


「…あ」


 やっとアリーが手を止めた。そして貝殻の表裏を何度もひっくり返す。上、下、上、下。そうやってひっくり返しても何も変わらないと言うのに。


 アリーがセリーヌをじっと見つめた。さっきセリーヌか彼女を見つめたように。心の中を見透かされるようで、彼女は目を逸らす。


「セリーヌ」


 アリーが囁く。その声は今にも波間に溶けいってしまいそうな程か細かった。


「…アタシが大切なものを失うって、さっき言ったわね」


「断言はしていない。はっきりとは見えなかった。ただ泣き崩れるお前を見た」


「この貝殻は…アタシが唯一、唯一、この町で愛した男のものなの」


「……」


「どうしてこれが、ここにあるのか。アタシには…アタシにはわからない」


 だって彼。そこまで言って彼女は笑った。


「アタシを置いていなくなったのよ」


 セリーヌにじりじりと彼女は近づく。その目は深い緑色で、何を考えているのかわからなかった。ただただ悲しみだけが見えるような気がする。その奥に何か眠っている様だけれど。


 ここもさっきとは違うな、とセリーヌは思った。もしかしたら伝えたことで未来は変わるかもしれない。そうアリーに伝えたいが余計なことを言えばまた未来は変わってしまう。


「彼が…生きてるのかしら」


 アリーは顔をそっと伏せ、それから何か呟いて、天を仰いだ。


「セリーヌ…アタシに協力して」


「今更いいえとは言えまい」


「アナタもよ、トット」


「オレを舐めんな。ついてくんなって言われたってついてくさ」


「見つけなきゃ」


 見つけて殺してやる。


 そんな風に聞こえた言葉を、セリーヌは波の音だと自分に言い聞かせた。


 自分の中で運命は転がっているのだ。これ以上、何かを考えても意味はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ