人生は一番美しい童話である(46)
そしてアリーの瞳をじっと見つめた。
「これから10分後にアリーが体験することを告げようと思う。
だけど無断でやるのは好かないから、一応確認するが、大丈夫か」
「いいわよ、やってみせて」
アリーも彼女の瞳を見つめた。食い入るように彼女の瞳を見つめた。セリーヌの瞳孔が広がる。その広がり方は尋常では無く、彼女の黒目全てを覆い隠すようだった。死人の目みたいだわ、とアリーは思う。
セリーヌの視界は霧がかかっているようだった。
トットの姿はボヤけ、アリーだけが浮かび上がり、ゆっくりと動き出す。彼女は立ち上がり、海辺へと歩き出す。そこで貝殻を拾い上げセリーヌへと見せた。それは桃色で裏返すと真珠のような輝きの中に文字が彫ってある。しっかりとは見えなかったが、彼女はそれを右手でぐっと握った。それからトットに話しかけ、2人してセリーヌに詰め寄る。アリーは泣き出しそうな目でセリーヌに訴えかけ、そして走り出した。そのあとを空間だけが追っていく。暫く走った後、彼女は路地裏へと向きを変えた。その先で彼女は目撃し、そして吐いた。
セリーヌは5秒足らずで全てを見た。視界が晴れ、アリーとトットの不安そうな顔を目にする。
「桃色の貝殻…彫られた文字…走り出して…それからあなたは泣く」
「どういうこと?」
アリーが怪訝な顔をしてセリーヌを見た。
「あまり良くない感じだった」
セリーヌは薄く笑いながら言う。
「たぶん、大事なものを失う」
「…どうしてそんなことを言うの」
「どうしてと言われても、それが運命だ」
「酷い人」
そう言ってアリーは立ち上がった。
「まずは桃色の貝殻よね」
海辺へと歩みを進める。暫くして、彼女は貝殻のひとつを拾い上げてこう言った。
「これであなたの見た通りね」




