人生は一番美しい童話である(44)
風の匂いが少し潮を含んでいる。鼻につくその匂いはセリーヌにとっては安心感を与えるスイッチのようなものだった。
「綺麗だな」
彼女は呟くと浜辺へと座り込んだ。同時にトットも腰を掛ける。少し遅れてアリーが倒れ込んだ。
「…さて、私の話をしよう」
セリーヌが2人をかわるがわる見つめる。その視線に合わせるように2人が交互に頷く。
「まず、名前からだな。私はセリーヌという。これは仕事をする上での名前だ。本名は別にある。しかし私のことはいかなる時もセリーヌと呼んでくれ。 …黒蝶とは呼ぶな」
「…本名は教えてくれないのね」
「いずれ、そのときが来たら、だ。仕事で関わる可能性のある人間には本名は無闇に教えない。
それから、あくまで私たちは仕事上のパートナーだ。無闇やたらとプライベートに踏み込んではほしくない。 …相反するが生活は共にしてもらう。お前たちが私と組むと言うなら、今日からお前たちの家は私の屋敷になる」
「それは好都合だよね、アリー。僕ら今家無し子だもん」
「…そうね、それは助かるわ」
「ならよかった、私も家族が増えるのは嬉しい」
そう言って彼女は少し笑う。これは本心からの言葉だった。