人生は一番美しい童話である(42)
「仲間になりたいって言ってたな」
口を閉じることを知らない2人に向かってセリーヌは声をかけた。
「そう」
「うん」
同時に答え、その事でまた揉め始める。真似しただのしてないだの、喧嘩できる彼らが羨ましかった。
「具体的には何をしたいんだ」
私たちは人を救うが命も奪う。その両極端を貫き通す覚悟が、彼らにはあるのか。そこをきちんと見極めなければ、いつか裏切られる。それが怖いから、この何年間かずっとセリーヌはルーカスとアルバート以外の人間と関わることをしなかった。
「オレは人を助けたい」
「あたしはトットを支える、それだけだよ。この子、子どもだから」
そう言ってトットを見つめるアリーの瞳に一抹の愛情をセリーヌは鑑みた。それは恋人とか友達とかそういう範疇を超えた、家族の間にあるような。そんな愛情。
アルバートが時折セリーヌに投げ掛ける視線によく似ている。
「子どもじゃないさ」
トットは不貞腐れたようにアリーを見上げた。しかしその口角は、ほんの少しだけ上がっている。
「…兎に角。この子はやりたいと思ったことはずっとやり抜いてきた。あたしが一緒にいるようになってから、の話だけど」
だから。そう呟いてアリーは手を彼の頭にのせた。
「一番信頼できそうな人間と組ませたい」
「…アリー。お前に何かあった時の為か」
「…今はその能力、使わないでおいてよね」
アリーがクスクスと笑う。実際彼らといてからセリーヌは異能力を使っていない。しかし彼らの真っ直ぐな気持ちは覗き見なくともひしひしと伝わってきた。
「途中で音をあげるなよ」
セリーヌはそう言って彼らに背を向ける。ランニングの途中だ。先を急がねば。
「黒蝶…それって」
「私の名前はセリーヌ」
背を向けた彼女には彼らの顔は見えなかったが、少なからず理解はできた。彼らがとてつもなく喜んでいることが。




