人生は一番美しい童話である(41)
そもそも、なぜ彼女らは私が黒蝶だとわかったのだろうか。セリーヌは不意に疑問に思う。前回もそうだ。易々と黒蝶だとバレてしまった。
「…私はそんなに犯罪者顔だろうか」
セリーヌは頬に手をあて呟く。そんなことお構い無く、目の前では「オカマ」と「クソチビ」の怒号が飛び交っている。そろそろこいつら置いていっても良いだろうか。
そんなことより彼らの真意を見抜かねば、とセリーヌは彼らを凝視する。
アリーは少しウェーブのかかったブロンド。トットは赤毛のくせっ毛だ。彼女の目は青みがかった緑。彼は深い緑色。どう見ても血の繋がりはない。どういう関係なのだろうか。それに彼の口許まで隠す襟が捲れて、時おり見える首筋の痣や傷も気になる。彼女に至っては手首に布が巻かれている。
ああ。これは、大変なやつだな。
セリーヌは察して自分の手首を擦った。少しだけ痕の残った過去の記憶の欠片が指に触れる。経験のあるものにしかわからない、恐怖、痛み、喪失感、そして死ねないという絶望。トットに関してはわからないが、少なくともアリーには経験があるらしい。それだけでセリーヌからしたら、他人とは思えなかった。
尚且つ彼らは異能力を持っている。
私はまだましだわ、とセリーヌは思った。人の心が見えても、表に出さなければ他人にはそれはわからない。だけど彼らのように表面上で起こる異能力は、発症した時に制御が効かず暴走することもある。
ルーカスについては右手は義手だし異能力も視力だけ。だから表面上でも大丈夫だった。時々、目を掻きむしり血だらけになるのだけが問題だった。だけど、彼らは。
突然声が男から女へ。突然姿が消え別の場所にいたら。
居場所なんて無かっただろう、彼らに。




