人生は一番美しい童話である(40)
「あたしの名前はアル。アリーとでも呼んでちょうだい」
「嘘つくのはやめなよ、オカマ」
「オカマじゃないわよ、立派な女よ。ほらね、立派でしょ?!」
セリーヌは目の前で繰り広げられる漫才から目を逸らす。トットと呼ばれていた男の子は、アリーという女が突き出した胸に視線を釘付けにしている。
「それで、こいつはトット。こう見えてもう18なのよ」
「…え」
どう見ても身長は130も無い。なにも言われなければ小学生でもいけそうな程小さい。
「こうみえても、ってなんだよ! アルフレッド」
「その名前で呼ばないでちょうだい! このクソチビ」
どうやらこの2人には確執があるようだ。これじゃ進む話も先に進まないな、何て思いながらセリーヌは2人のやり取りを楽しんでいた。
「…さっきからトットくん。お前は彼女をオカマとかアルフレッドとか男扱いしているが、どういうことだ?」
2人の間に身体ごと割って入る。セリーヌ越しに睨み合いつつも、トットがそのといに答えた。
「アルフレッドは男だよ、黒蝶さん」
それからトットで良いよ、と続ける。その言葉を遮るようにアリーが叫んだ。
「昔の話よ! 今はこんな風に立派な女よ。出るとこでて引っ込むとこは引っ込んでる! どんな男だって魅力を感じるグラマラスボディなんだから」
「今だって男になろうとしたらなれるだろ」
「…煩いぞ、餓鬼」
アリーのか細い身体とは似つかないようなドスの聞いた声が響く。セリーヌは驚いて彼女をじっと見つめた。顔や骨格はどう見ても女でしかない。その声だけが不釣り合いに彼女を支配していた。
「アリーはもともと男なんだ。だけど、今は女として生きてる」
トットが頭を抱えながら言った。どうやらアリーに殴られたらしい。
「アルフレッドなんて名前、とうの昔に捨てたのよ」
右の拳にふぅふぅと息を吹き掛けながらアリーが答えた。随分と強い力で何かを殴ったらしい。何をか、は考えないことにした。
「あたし達は貴女と同じなの。あたしは声を自由自在に変えられて、トットは光よりも速く移動できる」




