人生は一番美しい童話である(4)
どうやら日の出には少し遅れてしまったらしい。海岸線から目測12メートルほど昇った太陽を見つめた。
太陽はいつ見ても美しい。目を焼け焦がす様に輝いているのに、何故か見つめ続けたくなる。それは美しさを追い求める人間の性であり、いつかは地に返るからこそ焼き付けておきたいという願いなのかもしれない。
そんなことを考えながらセリーヌは足を止め、砂浜に腰掛けた。誰もいないこの朝の絶景を見ることで彼女の一日は始まる。きらきらと波間を反射する光の1つ1つを数え、少しまどろみ、そして帰路へとまた立ち上がる。そして帰り際先程見つけた獲物をもう一度目に焼き付けるのだ。
しかし今日はもう少しここでまどろんでいたい、と彼女は珍しく思った。何か特別な出会いが、近々起こりそうな気がするのだ。それが今日なのか明日なのか1週間後か1ヶ月後か。彼女にはわからなかったが、確かにそれが起こることは予知できた。何故だかはわからないが、強く感じていたのだ。
目を閉じると瞼の裏が赤く染まる。それは昨夜目にした血の色によく似ていた。凝固した血は赤黒く美しくはない。しかし流れ出る血液はどんな犯罪者でも、赤く輝いているのだ。
彼女がこの世で一番美しいと思っているものこそ、血に違いないのだった。