人生は一番美しい童話である(38)
結局セリーヌは彼に真実を話した。隠したところで、何にもならないとわかっていたから。
「その若造に会ってみたいな」
アルバートが笑いながら言った。その瞳は好奇心に満ちている。
「とても面白い人だ」
だけど、と彼女は続ける。
「私のことは良く思っているようで、良く思っていない」
「どういうこと?」
ルーカスがすかさず間にはいる。
「…彼は私の名前を聞いた瞬間から態度が変わった。帰り際には蝶が好きか、何て聞かれた。それから、私達みたいな存在が嫌いだとも。
私達が犯罪者を排除することで、新しくどんどん生まれてしまうんだと」
セリーヌは薄く笑って、悲しいねと言った。アルバートとルーカスも黙った。自分達の姿をそんな風に見ている人がいるなんて、全くもって知らなかったのだ。正しいことだと信じていても、たった独りが否定すれば、それは間違いになる。
そして今まで自分達がしてきた行いも間違いになる。
何人もの犯罪者をこの手で駆逐してきたことが。殺人へと成り変わる。
「…私はJ.J.みたいな、自分が犯罪を犯していると認識している人間まで大勢殺してきたのかもしれない」
「セリーヌ…そんなこと考えないで」
「そんなの、初めから求めてないんだ。ただ…ただ悪い奴等を、誰かを傷つける奴等を、私は」
「セリーヌ。良く聞きなさい」
不意にアルバートが口を開いた。
「自分が正しいと信じてきたことを貫きなさい。そんな赤の他人の言葉に左右されるんじゃない。
お前の家族は誰だ?お前の気持ちはどこだ?」
その問いかけに彼女は口をつぐむ。
「安心しなさい、セリーヌ。我々の行いは正しい」
おやすみ、とアルバートは言って寝室へと去っていく。その後ろ姿を見ながら彼女は、やっぱりアルバートとルーカスが私の家族でよかった、と心の中で思った。