人生は一番美しい童話である(37)
久方ぶりに夕飯の為に彼女はダイニングルームへと降りる。
「お嬢」
階段を降りたところで、ルーカスが彼女の姿に気づき駆け寄った。
「こんなに痩せ細ってしまって。何も食べてなかったのかい?」
「…お腹がすかないのよ」
少なくとも彼女は3回ほど食事することを試した。しかし、それは彼女に嘔吐感を与えるだけの愚行だった。どうにも喉を通らないそれらは、便座の中へと流れ出た。
「でもあまり心配はかけたくないから」
彼女はそう言って笑う。その微笑みでさえも弱々しくルーカスには見えた。
ダイニングルームに入るとアルバートが顔をあげ、セリーヌを見た。
「何があったんだ」
開口一番そう尋ねる。
「…少し散歩していただけだ」
「それにしては遅い帰りだったぞ」
「街でお茶してた、独りで」
「人混みが苦手なお前が?」
「…そう」
「真実をいうべき時もあるぞ、セリーヌ」
アルバートはそう言って持っていたカップをおろす。
「いつもジョギングが朝なのは人がいないからだろう」
「…獲物が多くいる時間だからだ」
「でも昼の方がかなり沢山見つけられるぞ、私の経験談だ」
「人が多いとわけがわからなくなるんだ」
「じゃあどうしてこの間は独りで日暮れまで街にいられたんだ」
「それは…カフェにずっといたから」
「セリーヌ」
深い溜め息をつく彼の目はじっと彼女を見つめる。セリーヌは思わず目をそらした。追い討ちをかけるようにアルバートが呟く。
「お前の言っていることが真実なら、なぜ今、目を逸らした」
セリーヌは唇を噛む。本当の事を言ったらなんと言われるだろう。きっと怒りはしない。責めもしない。
それがわかっているからこそ。彼女はなんと言ったらいいのか、どこまで話したらいいのかわからなかった。