人生は一番美しい童話である(36)
窓の外はもう暗い。街の明かりへと目を向ける。
あの光のどこかに彼はいて、私はいた。
そう思うとなんだか悲しくて、彼女は泣いた。声を殺して。想いを殺して。
誰かに愛されたいと思った。誰かを愛してみたいとも。だけどそれがこんなに辛いなら、味わいたくなかった。彼女は今はっきりとわかっていた。
彼に嫌われたくないと思ってしまうのは、自分の邪な愛のせいだと。
ふふ、と笑って光から目を逸らす。
「…馬鹿みたいだな」
その言葉が慰みにならないことも彼女はわかっていた。馬鹿だとはわかっていても止まることを知らないのだ。眠るとき何も考えないように薬を飲んだって、夢に出てくる。ならば寝ないでいようと思うと、窓の外に目がいく。好きじゃない、この感じ。
「私が今までしてきたのは正しいことだったのか?」
そんな言葉で問いかけてみても答えはわからない。
アルバートやルーカスに聞いてみようとも思った。しかし、アルバートに話せば八つ裂きにされるだろう、彼は。ルーカスに話したところで結果は同じに思えた。
どうしたらいいんだ、と悩むことしかできない。
いつの間にこんなに非力になってしまったのだろう。それとも、愛という邪悪なものの前では皆ひとえにこんなものなのだろうか。