人生は一番美しい童話である(3)
その時彼女は確かに、その老人の心を覗いていた。年相応のか弱い思考などではなく、薄汚れ欲望に満ちたその心を。
彼女には幼い頃から人の心を垣間見る才能があった。世の中ではそれを"異能力"だとか"超能力"と呼ぶらしい。しかし彼女にとってそれは"日常"であり、何故皆ができないのか不思議に思うことの1つだった。
尚且つ彼女は第六感が冴えている為、相手の考えに基づき10分後までの行動パターンをあらかじめ知ることができた。
今目の前にいる老人が、その数歩先を歩く可憐な少女を連れ去り軟禁する未来も彼女には見えていた。
「獲物は見つけたわね」
セリーヌは呟き笑みを漏らす。しかし彼女は例え未来を予測できても、それを止めることはしない。そのまま走り去り、全てを自らの記憶の中に留めるのだ。そうすることで相手は犯罪者となり彼女達の獲物と成り代わる。何もしていない者に手を出したら自らが犯罪者に成り得ることを、彼女は熟知していた。それは父親からの教えでもあり彼女の経験から学んだことでもあった。
ほんの少しの罪悪感を胸に彼女は街を後にする。この罪悪感と怒りは夜までとっておけばいい。そこですべては発散できるのだ。
そもそもこんな明け方の道を短いスカートを履いて歩いている方がいけないのかもしれない。誘っているようなものじゃないか。あの少女は何故、こんな朝方に独りで街に出てしまったのか。私のように走るわけでもなく、ただ、スラムの方へと向かっている。
確かスラム街の近くには売春宿が立ち並んでいた。あんな若い娘でも自らに値段をつけ売ってしまう時代になったのか。
そんなどうでもいいことを考えながら、彼女は走り続ける。
やがて足元のタイルが固い土に変わり、そして砂になった。