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人生は一番美しい童話である(29)
なんてキザな男だ、とセリーヌは心から思った。こんなクサい台詞言えるなんて相当なやり手に違いない、とも。
ゆっくりと体を離して、セリーヌはトーマスの方へと向き直る。
「…随分、女の子に馴れてるのね」
ふふん、と鼻で笑って彼女は言った。その反撃とも見える行動にトーマスは微笑みながら返す。
「みんなにこうなわけじゃない。君だけだ」
「その台詞もクサいわ」
「緊張で頭が空回ってるんだよ」
「よく言うわ。良い慣れてるくせに」
「違うんだよ、本当に」
「どうなのかしらね!」
そこまで言ってなぜこんなにムキになっているのかと、彼女は自分自身を嘲った。
「そう言えば君の名前、僕は知らないままだ」
セリーヌの反撃を止めようと彼は言った。
「私の名前はセリーヌ。ただのセリーヌよ」
「…セリーヌか」
少し彼は考えてから「良い名前だね」と呟いた。しかしその目はもう彼女を見ておらず、遠くを睨み付けている。




