人生は一番美しい童話である(27)
「何かお好きな食べ物はありますか」
「何か飲みますか」
「素敵なワンピースと上着です」
「近くでみてもやっぱり綺麗な瞳ですね」
歯痒くなるような台詞を言われ、セリーヌはぷいと横を向く。
「…ありがと」
男勝りだった彼女はあまり異性から誉められたことがない。だからこそ、なんと言って良いかわからず押し黙っていた。彼がどこに向かっているかもわからない。しかし、街の中心に向かって人が多くなるのは目に見えてわかった。
人混みは苦手だ。そう思ったとき前を歩いていたトーマスが振り返った。
「ここから先は人が多いですから、離れないようにしましょう」
そう言って彼はセリーヌの手を掴んだ。
「…なっ」
「すみません…少しの間だけこうして手を繋いでいてください」
顔を真っ赤にした彼女を見ないように彼は顔を背ける。耳たぶがほんのり赤く染まっていた。繋いだ手元に汗が滲む。ベタベタしてると思われたらどうしよう。そんな彼女らしくもない心配が頭のなかをぐるぐると駆け巡る。
「…手汗かいてしまってすみません。もうすぐ離しますから」
その言葉にセリーヌは彼を見つめた。彼も彼女を見ていたが、目が合うほんの少し前に視線を逸らし足を早めた。