人生は一番美しい童話である(26)
「大丈夫ですか?!」
そう言って差し出された手。
「…ごめんなさいね、少し考え事をしていたみたいなの」
他所行きの声で彼女はそう言って、その手を掴んだ。グッと持ち上げられる。あらぬ迷惑をかけてしまったと再度謝ろうとして、彼女は口をつぐんだ。
「…君はこの間の!」
なんといっただろうか。彼の名前は。全く記憶にないが、にこにこしていれば問題ないだろう。
「何日か前にもお会いしましたね」
「あの時はお付きの人がいたから挨拶もできなかった。すみません」
「問題ないですよ! 私こそぶつかってしまってごめんなさい。
どこかへお急ぎだったでしょう?」
そろそろと後ろに下がる。
「またお会いできたらいいですね。では」
そう言い手を振りながら彼の横を通りすぎた。その手を彼はグッと掴む。
「君を…君をずっと待っていたんだ、この3日間ずっと。ここで」
セリーヌは驚いて振り返った。
「僕はトーマス。君といつか結婚したい」
「…は?」
「君のその正義感に溢れた瞳に心が奪われたんだ。
僕と一緒にお茶でもしないかい?」
その誘いかたに彼女は思わず笑った。
「あなた面白いのね」
「お茶する気になった?」
「…いいわ、少しだけね」
ではエスコートしましょう、とトーマスが彼女の手をとった。




