人生は一番美しい童話である(22)
「僕が父から愛されなくなってから、誰も僕を愛してくれていない感覚に陥ったんだ。僕を愛してるという人もいた。だけど僕は心の底からは信じられずにいた。そんな風にしていたら、相手の愛も冷めてしまう。
出来立てのシチューを人参が嫌いだからって食べずにいて、いざ食べようとしたら冷めてしまっていた。そんな感じに似ている。シチューは温め直せばどうにかなるけど、僕への愛はそうじゃなかった。
1度受け入れることをやめてしまうと、それはドミノ倒しのようにどんどんとできなくなってしまうんだ」
セリーヌは頷く。
「僕はそんな自分の欠点を父のせいにした。毎日、毎日、来る日も、過ぎる日も。僕は父を恨んだ。
そして」
そこまで言って彼は笑った。その笑い声は今まで聞いたなかで一番乾いていて、笑い声というよりも泣いているようだった。
「僕はこの綱で、彼を殺したのさ」
彼の手に握られた綱が力なく地面へと垂れ下がっている。よく見ると所々ほつれ、時代の流れを物語っていた。
「それから僕は、彼が唯一愛した女性に似た女を殺した。誰でもよかった。黒髪で肩までの長さ。それから切れ長な瞳。そう、例えるなら君のようなね」
J.J.がルーカスをじっと見つめる。その瞳には先程までの弱々しさなどなく、憎しみの炎が燃えていた。しかしすぐにその炎は消え去り、また悲しみを語り出す。
「色々な方法で殺したよ。それこそ銃で死なないくらいに撃ちまくったり、ナイフで急所以外を差したり。本当にたくさんのことをした。
だけどやっぱり最後はこの綱で首を絞めてしまうんだ。
あの日のことを思い出してしまうのに」
おもむろに彼は立ち上がり、ルーカスに向かって囁いた。
「…なあ、君。本当に僕を殺してくれないか」