人生は一番美しい童話である(21)
「それはわからなくもないわね」
ルーカスが呟いて彼へと右手の人差し指を向けた。小さい子供が鉄砲を撃つ真似をしているときと同じ様な笑顔で。
「ばん、ばん、ばん。
はい。君は死んだ」
彼女は笑いながらそう言い放つ。J.J.は呆れた様な笑い顔を浮かべた。
「…そんなので僕が殺せたら、君は無敵だね」
「あら、私は無敵よ?」
「無敵なら今すぐ僕を殺してくれよ」
へらへらと笑いながら彼は言う。その言葉が本心なのか冗談なのか、セリーヌにはわからなかった。それはひとえに、彼の手が小さく震え、彼女の首もとを緩め始めていたからだ。
「なぜ、お前は罪もない女子供を老人のふりをしてまで拐う?」
げほげほと咳き込みながらセリーヌは彼に問いかけた。
「僕が人を殺す理由が知りたいの?」
J.J.は目を丸くしながら問いかけで返す。
「知りたい。だってきっと普段のお前は、明るくて素直な青年な気がするんだ」
「…そんなこと言われたの、久しぶりかもね」
口元を緩ませながら彼は答えた。同時に緩んだ綱からセリーヌは抜け出し、彼をまっすぐに見つめる。
今までのようにへらへらと笑っているようで、その目は笑っていなかった。そして少し、ほんの少しだけ、彼の瞳の中に映るランタンが揺れ動いた気がした。
「久しぶりに、こんな風に誰かと話したくなったよ。
…僕の話、少しだけ聞いてくれるかい?」
「もちろんだ」
セリーヌは後ろ手にルーカスを止め、彼を椅子へと誘う。彼の手は震え、目は虚ろに空を見つめたいた。