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人生は一番美しい童話である(2)
走り初めてからちょうど20分が経つ頃。セリーヌは中心都市へと踏み込んでいた。摩天楼ばかりが建ち並び迷路を織り成している。彼女はいつもこの場所に来ると言い様のない興奮に襲われるのだ。
まるで出口のない迷宮に入り込んでしまったかのような。そして何者かが彼女を追い詰めているような。そんな命を賭けているような言い表し様の無い感情が彼女の足を前へ前へと誘う。
頬に爪を立てて流れるような風を感じながら、彼女は休むまもなく周囲に目を凝らす。今日の獲物はどこかに落ちていないだろうか。その瞳はあたかも草原で縞馬を探す雌ライオンの如く鋭いものだった。そのせいか、彼女と目が合うと誰もが下を向いてしまう。まるで皆が皆、自らの中に眠る黒い感情をひた隠しにしているようだった。
3つ目の角を曲がったところで彼女はペースを落とす。
その視線の先には1人の痩せ細った老人がいた。到底彼には犯罪など犯せそうにもない。しかし、彼女はじっと見つめる。
まるで、心の中を覗き込むかのように、じっと。