人生は一番美しい童話である(18)
セリーヌはひたすら黙って彼の話を聞いた。彼の気持ちは彼女にはわからなくもなかった。
父親から愛されない苦しみ。絶望。諦め。
「それから僕は父を"お父さん"と呼べなくなった。いつもこう呼んでいたのさ。
"マシューさん"とね。10歳の子供が父親を名前で呼ぶことなんて、そうそうない。生憎、隣に住んでいた女性が噂好きでね。瞬く間に話は広がった。
本当は貰い子だとか、悪魔の子供だとかね。でも父親を酷く傷つけたのは、実は妻は死んでなくて失踪した、なんていうくだらないものだった。みんなで泣きながら葬式をしたはずなのに。
僕の母はいつの間にか、僕を捨てて逃げた悪い奴になってた。そして父の怒りは僕へと矛先が向く。
そのおかげで、ほら。こんなに華やかな身体になったんだ」
彼はおもむろに服を脱ぎ始めた。シャツのボタンを胸まではずした所で、セリーヌは目を背けた。彼の身体は華やかどころか、無惨にも傷つけられていた。
幾重もの縫い跡が連なり、小さな火傷の跡が点在している。その傷は何かの文字に見えた。彼は傷跡を撫でる。
「僕の中には悪魔がいるらしくてね。12の時からずっと父が一生懸命、悪魔払いをしてくれたんだ。"exorcism"は悪魔払いって意味だからね。
でも、僕の中には悪魔はいなかったんだ、実際のところ。
むしろ逆でね。面白いことに、父にこうされる度に沸々と怒りが込み上げてきてどうしようもなくなったんだよ」
シャツのボタンを1つずつはめながら、彼は呟く。
「1つ1つ傷か増える度に、僕の中である考えが形を持ち始めた。最初は小さな復讐だった。だけど16になるとき。その考えは形を持ち始めた」
首もとの最後の1つを止めて、彼はおもむろに立ち上がった。
「僕がどうしたか、君の身体に直接教えてあげるよ」