人生は一番美しい童話である(17)
「僕が生まれたとき、母親が代わりに死んだ。
最愛の人を奪った赤ん坊など、愛するわけがないよね。僕の父は僕に試練を与えた。生きながらも愛されず、ただ時間を浪費する、というだけの試練をね。簡単な事に聞こえるかもしれないね、愛されてきた人間からすれば。
だって人は愛さない、ということはできないからね。
だけど1度捧げた愛を奪われると、人は愛することを放棄できるようになるらしい。父と僕が話したのは、片手で数えられるよりももっと少ない。
僕が10になったときに聞いたのさ。
なぜ、みんなはお父さんと遊ぶのに、僕は遊べないのかってね。
そしたら彼は言った。
私を父と思うな、とね」
そこまで話して彼は深い溜め息をつく。
「僕には父が何をいっているのかわからなかった。実際、君がそう言われても理解はできないだろう?幼い僕にはもっとわからなかった。
そしてもう1度聞いたのさ。
僕はお父さんの子供じゃないのか、ってね。
彼は無情にも良い放った。
お前のことなど息子と思ったことはない、とね。
僕には理解できなかった。父が何を言ってるのか。理解したくてもできなかったんだ。だって10歳だよ?そのとき僕は。そんな幼い子供に大人の理屈なんてわからないよ」
そこまで話して彼は目を閉じた。椅子がぎしぎしと軋む音だけが響く。