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人生は一番美しい童話である(16)
彼の強さは群を抜くマイペースさと会話の巧みさにあった。J.J.などと呼んでくれる友人はいなかった。しかしそれをあたかも"実在する人間"のように語るのが彼の話術だった。
「あまり縛ってると壊死して君の痛がってる顔が見られなくなるから、もうほどくね」
そういうと同時に縄はするりとセリーヌを離し、彼の手の中に滑り込んだ。この手捌きは本物だと確信する。何人にも同じことをしていなければできない速さと絞め付けだった。万が一絞めすぎれば骨が折れる。万が一時間がかかりすぎれば逃げられる。しかし、万が一雑にやっても縄はすぐにほどけてしまう。
絶妙に計算された、縄の扱いだった。
「…お前は、何者だ」
「僕は、J.J.。それ以下でもそれ以上でも無いよ。ただのJ.J.」
「でも、ただの人間に今の縄捌きは無理だ」
「うーん。知りたがり屋さんかな?君は」
三日月のようだった瞳が一瞬にして直線に変わった。
「そんなに聞きたいなら、僕の昔話、聞くかい?」
そしてそれは唐突に始まった。