人生は一番美しい童話である(15)
何故アルバートやルーカスがこの男ひとりに命を落としているのか、セリーヌには理解できなかった。確かに恰幅は良く戦闘能力は高そうだった。しかしだからなんだと言うのだ。アルバートにもルーカスにも自分と同じ異能がある。だから普通の人間になんて負けるわけないのだ。
「そんなに緊張しないでさ、気楽に自己紹介でもしようよ」
固まるセリーヌとは反対に彼はへらへらと笑いながら椅子に腰かけた。所々黒く染みが残るそれは、きっと何人もの死を目にしてきたことだろう。
「僕の名前はジェームズ・ジョーダン。みんなにはJ.J.って呼ばれてる。
僕の家はここ。町外れの海岸線沿いのこのボロ屋。19歳で一軒家持ちだよ。もちろん名義は僕じゃないけど」
彼はおもむろにポケットから縄を取り出す。
「これは僕の相棒。ロープのジャック…まあ、もちろん、その名前で呼んだことはないけど。
でも相棒なのは本当だよ。彼じゃないと手に馴染まなくて、うまく絞められないんだ。
こんな感じにね」
そう言ってセリーヌの手首に素早く縄を巻き付けた。まばたきする間もなく括られたそれは、ぎりぎりと彼女の腕を締め付ける。
「…っ」
「ごめんね、痛いよね。すごく痛そうな顔してるもん。でもね、とても可愛いよ。写真撮ってもいいかな。可愛い」
「…やめっ」
「あ、もしかしてあれ?写真撮ると魂持っていかれるって信じてる人?大丈夫だよ、そんなことないからさ」
どんどん会話のペースが彼に持っていかれる。楽しそうに話す彼にうってかわって、血の気の引いたセリーヌ。彼女の手首は最早、血を身体に廻すことができなくなっていた。鬱血して赤くなった手首はどんどんと浅黒く変わっていく。
もうすぐ10分が経つ。アルバートとルーカスが入ってきたら、それこそ一環の終わりだ。