人生は一番美しい童話である(14)
セリーヌは自らの予知が間違っていたことに気づく。あれは確かに老人だった。しかし今目の前にいるのは若く恰幅の良い男性だった。
「…僕の姿を見て驚いてるってことは、知り合いかな?」
慌てて首を横に振るが、彼は怪訝な目をやめない。身体の隅々にまとわりつくような視線を投げ掛ける。それが足元まで来たとき、不意に視線を止め、それから彼女の顔を覗き込んだ。
「その服の下には何を着ているんだい?」
セリーヌは緊張から何も言わずじっと彼を見つめた。そして彼の考えていることが正しいことを示すかのようにスカートを押さえる。
「黒いレザーが見えたよ…あぁ、そうか。君がかの有名な黒蝶さんかな?」
裾を握った拳が震える。
「いつか会いたいと思ってたんだよ!いやぁ、自分から来てくれるなんて」
夢みたいだ、と呟きながら彼は彼女の頬を指先で撫でた。少し長い爪が、頬に薄い桃色の線を刻む。
「…触らないで」
必死に声を絞りだし、抵抗する。彼女がここまで怯えるのには理由があった。彼の心の中を覗き込んだとき、彼女には見えてしまったのだ。彼に身体を弄ばれ、四肢は人形のように垂れ下がる自らの姿が。そしてその横には、アルバートとルーカスが血の海に沈むのを。