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一灯を下げて暗夜を行く(31)
「お前の顔についてるものを剥がさせてもらう」
そういうとセリーヌは一歩前へと踏み出した。それに合わせて店長も一歩後ろへと下がる。
「成る程ね…だけど残念。無理なんだよねぇ」
「……何故そう言い切れる?」
「だって僕の顔についてるのは、君達と同じ様なものさ。
君たちには偽善者の顔! 僕には……そうだな……罪深き善者、かな」
「何をふざけて」
セリーヌの言葉を遮るように彼は右手を前に出した。
「だって僕から望んで顔を奪ったことなんてないよ? みんな向こうから来るんだ。顔を交換しましょう、なんてね。
だから、良いよって交換する。そうすると何故かいままで雲隠れしていた殺人犯の顔が世にばれて、そして彼らが捕まるだけ。
全て偶然という名のもとの運命さ」
それに、と彼は呟いて笑う。
「顔は僕の中に一体化してしまうんだ。だから剥がすことも変えることも、今は、できない」
くくく、と喉を鳴らして彼はセリーヌへと右手を伸ばす。おいでおいで、とするように。