一灯を下げて暗夜を行く(30)
「……おやおや。全員お揃いかい」
店長が呆れ顔で言った。1人に対して多勢だなんて卑怯な人達だ、とでも言うように。
「お前が何者なのか、まだわかっていないからな」
「念には念をってやつよ!」
アリーが睨み付けながら言った。その瞳の鋭さですら、彼には意味がないらしい。
「ところで俺んとこに、何のようですかな? まだ店の準備中でね」
店長が肉切包丁を片手でくるくると回しながら言う。
「そのナイフで殺ったのか」
「何を言ってやがる。これは仕事道具だ。
それに俺は何もしていないから、その問いには答える必要はねえなぁ」
がははははと笑う彼を一瞥するセリーヌ。その瞳は彼の指を見つめていた。
「船乗りだったにしては、綺麗な指だな」
その言葉に彼はさっと手を後ろに組んだ。セリーヌは笑い「冗談だ」と呟いた。
「……もう随分と昔の話だからな」
「それにしては華奢な脚だわ」
アリーも言って彼の脚に触れようとする。
「やめろ!」
そう叫んで身をよじる。それに合わせてアリーもステップを踏んだ。よろけた店長がアリーに支えられる。
「……あら? 年増じじぃにしては体重も軽いのね」
店長は何も言わず、下を向いて唇を噛んだ。
それをみてセリーヌは問いかける。
「お前はいつからお前になった?」