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一灯を下げて暗夜を行く(29)
まるでサーカスの始まりの様に両手を広げ、彼は笑って言った。その笑みに罪悪感の欠片も見当たらない。その化けの皮が剥がれたとき。その目はどのくらいの残忍さを秘めているのだろうか。
「美味しいご飯が食べられるって言ったのに! アタシに嘘つくなんて最低ね!」
アリーがよっこらしょ、と呟きながら扉を開けて入ってくる。その後ろにはトットやアルバートの姿も見えた。
独りで行こうとしたセリーヌを皆が全力で止めたのは言うまでもない。前回の事があったのだ。
人の記憶と言うものは歳をとるにつれて、嫌なことだけ覚えているようになる。