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一灯を下げて暗夜を行く(25)
「……どちらとも言えないなら、嫌ではないんだよね?」
セリーヌは返答に困る。彼女にとっては難しい質問だった。
憧れることはある。街を2人で仲良くてを繋ぎ散策する人を見て。
憧れることはある。カフェで2つケーキを頼み、シェアする2人を見て。
憧れることはある。別れ際、泣き出しそうな彼女を優しく包む彼氏の腕の暖かさを。
だけど。
それは"普通の人"の自然な形なのだ。セリーヌの様な人間がそういう相手を作ったところで、自分の仕事は打ち明けられない。
隠し通せるだろうか。
否。いつかばれて、セリーヌは捕まってしまうだろう。
それが怖いのだ。
「秘密を」
セリーヌは呟いた。
「秘密を守れる人がいるなら」
私はそういう人なら一緒にいることが怖くないだろう。
彼女はそう言おうとして下を向いて、眉をひそめ笑った。
そんな人間、いないのだから。