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一灯を下げて暗夜を行く(24)
「実は前から聞きたいことがあったんだ」
トーマスが唐突に切り出した。セリーヌは小首をかしげて、話を促す。
「…サリーってさ」
思い詰めたような表情に、セリーヌはゆっくりとフォークを置いた。そしてそのまま机の下で手を組んだ。万が一の時に。手が震えて"粗相"をしないように。
「お付き合いしてる人はいるの?」
その問いに思わず彼女は吹き出した。机に斑点を描いた唾を慌てて拭く。
「その手のものは生まれてこのかた、1度も居ないわよ」
その答えにはトーマスも驚いたように、飲んでいたミントティーを喉につまらせた。その様子を見て、セリーヌが笑う。「ごめんごめん」と言いながら口を拭う彼に、彼女はハンカチを差し出した。
拭うものを全て拭い、彼はまた切り出す。
「そういうの、君は欲しいと思わないのかい?」
「…難しい質問ね」
「簡単だよ。"はい"か"いいえ"の質問だからね」
「"どちらともいえない"って選択肢は無いのかしら?」
「うーん」
トーマスは唸って下を向いた。