一灯を下げて暗夜を行く(20)
「…そうだ。この顔だ」
セリーヌはそう言って写真の中の目をじっと見つめた。まるで、そうすることで先程自分が見ることができた未来を再確認するかのように。
「ただのエッセイストじゃない? 悪いことしそうな顔には見えないけれど」
覗き込んだアリーがそう言ってセリーヌを見る。それに応じるようにゆっくりと首を左右に振った。それにあわせてアルバートが口を開く。
「そういう人間だからこそ、やりやすいんだよ。容疑者にあがったところで『いえ、この人はそんなことするような人間じゃありません』なんて他の人が言ってしまえば、私達の町の警察はそうですかと他をあたる。
意外と普通に見える人間こそ、たまにやらかしてたりするものだよ」
私の顔を見てみなさい、と言わんばかりにアルバートは胸を張った。それにもセリーヌは首を左右に振るが彼は気にする様子もない。さも自分は周りから見たら紳士だと言っているようだった。あながち間違いではないのだが、そこで胸を張るのも違うような気がするのはセリーヌだけではないだろう。
「…まあ、そんな感じで、そういう平凡"すぎる"奴ほど怪しい。だってこいつの顔を見てみろ。子供の描いた落書きですらもう少し特徴的だと思わないか?」
平たい太眉。細く垂れた目尻。胡座をかいている鼻には少し大きめの、親指の先程の写真でも見えるくらいのホクロがこれまたそこに居座っている。眉毛の上でギザギザと切り揃えられた黒髪は、町のなかに一歩踏み出せば見つけられないほどありきたりだ。
確かに犯罪とはほど遠いところに住んでいるような顔をしている。
だが、彼女が先程見た顔は、確かにホクロが居座っていた。