一灯を下げて暗夜を行く(19)
「というわけで、次の獲物を見つけた」
フルハウスをテーブルに叩きつけながらセリーヌが言った。先程から彼女の1人勝ちである。アルバートは必死に彼女のイカサマを明かそうと奮闘しているが意味はない。音速で走る子どもを味方につけた彼女に負けはないのだ。
「次の獲物は私だな。そうなんだろ。私の遺産を総取りするつもりなんだな!!!」
アルバートが負けた悔しさから、あらぬ言いがかりをつけるがセリーヌには貸す耳もない。
「まだ何処に潜んでいるかはわからない。ただ道端で見つけた。人相はこれだ」
セリーヌは手元にあった紙に走り書きをする。短時間で描いたとは思えないほどリアルな人相画に、トットが感嘆の声を漏らす。
「あら…この人。私知ってるわ」
ルーカスがそう言って席を立った。そして積み重なった週刊誌の中から1冊を躊躇い無く選び、セリーヌへと渡す。
「…つくづくお前の記憶力のよさには惚れ惚れするよ」
セリーヌは週刊誌を開く。真ん中辺りまで来て、ルーカスが「そのページよ」と言った。
『シチリエ精肉店』
見出しにでかでかと赤い文字でそう刻まれている。小さい町にしては少しばかり大きいすぎる精肉店だ。写真もあるが、先程の人物の顔は無い。
「…これじゃないんじゃないか?」
「いいえ。これよ。ほらここ」
ルーカスの細い指が紙面の隅を指した。
『執筆:ヨハネス・シュワルツェ』
その横に小さく顔写真が載っていた。セリーヌが描いた絵に瓜二つの人物が。