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一灯を下げて暗夜を行く(16)
小さく呟いて、アリーはセリーヌから目をそらす。
「こうやって5秒、貴女は見つめるだけで全てがわかる。それがあなたにとって普通。
こうやって声を変えて男みたいに話したり、こうやって子供みたいに話したり。これが私にとっての普通。
"世間"なんかに惑わされないで。世間の普通"なんて私達1人1人にとっては時たま、"普通ではないもの"になるんだから。それに惑わされて自分の"普通"を消してしまったら」
アリーはそこまで言って手を握りしめた。両手の間に何かを見つけるようにじっと見つめる。
それから、セリーヌのほうをまた向いた。
「そしたら貴女は貴女でなくなるわ」
風が2人の間を駆け抜けた。その冷たさにセリーヌは身震いする。
震える両肩を抱き締め、自分が自分でなくなる恐怖をうっすらと想像しながら。