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一灯を下げて暗夜を行く(14)
誰かを愛することは、自らの最高の失敗になるのだ。
そう思って、セリーヌは頭を大きく横に振った。何を考えているんだ、私は。殺されかけた相手の言葉を頭の中で反芻して頷こうとするなど。馬鹿にもほどがある。
そう思うのに、この言葉が頭の中を駆け巡るのだ。
苛々する気持ちをぶつけるように、セリーヌは地面を蹴った。丁度足元にあった石が道路の向こうへと転がる。誰かにあたってはいけない、とセリーヌは顔をあげた。転がった先に黒いフードで身を隠した人影があった。
小石が排水溝に転がり落ちる。その音に反射するように、人影がセリーヌを見つめた。
いち、に、さん、し、ご。
セリーヌは心の中で数え、そして幻影を追う。そして、彼が何をしようとしているかを確認した。ふふふと心の中で笑う。
自分に平和など、縁がないのだ。
あるとすれば、犯罪者を殺すことで少しだけ生まれる気持ちだけが、彼女の中の平和を生み出しているのかもしれない。