一灯を下げて暗夜を行く(11)
隣でトーマスは満足げに笑っている。セリーヌは若干の罪悪感を感じながらも、"贈り物"のネックレスを首もとに揺らしていた。
「お前、意外と悪い奴だな」
クスクスと笑うセリーヌ。
「頭がいいと言ってほしいね」
トーマスは、にこにこと悪びれた様子もなく言い放つ。さも、それが当たり前かのように。お金持ちの名声持ちとは、怖いものである。
「気に入ったかい?」
トーマスが覗き込むようにしてセリーヌに聞いた。
「まあな」
満更でもない顔をしながら、素直ではない女である。空いている左の指でくるくると黒い石を回す。
「…その石は君みたいだね」
トーマスがその様子を見ながら言った。
「真っ黒で何も見えないかのように見えて、うっすらと中が透けている。君も同じだ。ガードが固そうに見えて、冷たい女の様に見えて、実際はそうじゃない」
「…冷たい女に見えるのか?」
「その口調じゃ見えるよ」
「じゃあ、この口調なら、冷たい女じゃないのね?」
「目付きが冷めてるよ」
「…それはどうにもならん」
ぷいと横を向くセリーヌ。笑いながらトーマスがその頭を撫でた。それを振りほどく様に首を振る。
「…素直になればもっと可愛いのに」
そんな彼女にそう言って、トーマスが微笑む。
確かに、こいつの笑顔を見るとこっちまで何だか笑いたくなる。そんなことをセリーヌは思った。