一灯を下げて暗夜を行く(9)
「お帰りなさいませ。本日もご来店ありがとうございます、トーマス様」
入り口に佇むきらびやかな女性が声をかけた。
「本日はお連れ様がいらっしゃるんですね。…ご家族ですか?」
あえて恋人か聞かないところ、そしてトーマスを見つめる視線から、セリーヌは彼女の心のなかで燃える嫉妬の炎に気づいた。別にそれがどうした、と思いながらも心の隅がちくちくと痛む。
「いや、彼女はそういうんじゃないんだ」
いつの間にか離れている右手をセリーヌは見つめた。
「ああ。ご友人ですね、唯の(・・)」
にこにこと悪びれた様子もなく女性はそう言ってトーマスの荷物をカウンターの上に置き、空いた右腕に腕を絡ませる。
「本日はどの様なものをご所望で? どんなものでもトーマス様の為なら用意いたしますわ。…それが例えば私でも」
「トミー」
セリーヌは腕をぐいと伸ばしながら彼を呼んだ。そしてその左手を自らの手に重ねたうえで、自分の方へと引く。
「今日は私のためにプレゼントを選んでくれるんでしょう? ならそこの女性に邪魔をしないよう言っていただけない? せっかくのデートが台無しになりそう」
その言葉に店員も言葉を返す。
「あら嫌だ。貴女みたいな見る目がない人とよりも、私と選んだ方が良いものになるに決まってるじゃない。
貴女はあちらの椅子にでもかけて、ゆっくり待っていてちょうだいよ」
「私と彼の時間を邪魔するの?」
「この店に来た限り、私が彼の専属よ」
「店員がこんなじゃ、店長さんもご苦労様だわ」
「あらやだ。私がここの店長であり、この会社のオーナーよ。
ねえ、トーマス様。こんな失礼な女やめた方がいいと思いましてよ」
「…そうだな」
トーマスが静かにそう言ってセリーヌを見つめた。
勝ち誇った様な店員の顔を隅に捉えながら、セリーヌはトーマスを見つめる。