一灯を下げて暗夜を行く(7)
アリーは用事があると言って、早々に屋敷へと戻って行った。残された2人は彼女が気を使ったことすら気づいていない。完全に2人の世界である。
きっと2人は雨が止んだことさえ、気づいていないのだ。
「あとはアクセサリーと靴を買わないとね」
トーマスがそう言って両手に抱えた袋を軽く持ち上げながら言った。
「アクセサリーなんて、つけたことがない! だから、そんな私に不釣り合いなもの、買わせるわけにいかない」
「なに言ってんのさ」
トーマスが笑った。
「だからこそ、僕が買うんだ。君に1番初めにアクセサリーを贈った男になるのは僕しかいないからね」
少し誇らしげにそう言ってから彼は恥ずかしそうに下を向いた。それにつられてセリーヌも下を向く。双方の頬は赤く染まっているが2人はそれを知らない。側を通りすぎる人々だけが、微笑ましげにその様子を眺めていた。
「まずは…その…なんだ。お店に行こうか」
そう言ってトーマスが両手に抱えた袋を片手に寄せ集める。
「…ここから先はアリーがいないから。迷子になったら、大変だろ。深い意味はないからね」
トーマスが左手をセリーヌに差し出しながら言った。顔はまだ下に向けられている。もし彼が勇気を出して彼女の顔を見ながらそう言っていたら。彼は今日1番嬉しそうな顔をしたセリーヌの顔を、目と鼻の先で見ることができただろう。
「…すまないな、気を使わせて」
セリーヌが彼の手を掴む。反射的に彼は顔をあげ、反射的に彼女は下を向いた。どこまでも初々しい2人である。