一灯を下げて暗夜を行く(6)
彼が現れたのは、今から30年程前。『女王蜂メリッサ』と『道化師アルバート』。この2つの名前が世界を恐怖に陥れていた。暫くして姿を消し、そして10年前。彼は再来する。
新たな相棒『黒蝶セリーヌ』と共に。
彼がいない15年間は様々な説が唱えられている。その理由、そして再来の理由。そして新たな相棒の正体は何なのか、と。痕跡を1つも残さない新たな相棒はその場のサインと"まるで暗闇に紛れた黒蝶のようだ"という理由で『黒蝶セリーヌ』と名付けられた。
そして、アルバート。
ある目撃者は白髪の紳士だったと言い、別の目撃者は黒髪の青年だったと言う。同じ事件の目撃者だというのに。
極めつけに、路地から出てきたときピエロの様な真っ赤な口と頬に描かれた涙が見えた、という証言が出た。そこから"人々を翻弄させるピエロのような男"という認識が生まれ、暫くして『道化師アルバート』という2つ名がついた。
本人に聞いていないから、わからないけど、と誰に言うでもなくセリーヌは呟いた。
「何か言ったかい? サリー」
キョトンとした顔でトーマスがセリーヌを見つめる。
「なんでもない、トミー。
いいぞ、仕方ないから行ってやる。そのサーカスというやつにな」