一灯を下げて暗夜を行く(5)
「この白いワンピースの方が、私は好きだ」
そう言って近くにあったワンピースを取り上げる。それはヒラヒラとレースのついたいかにも女性らしいスカート。アリーですら疑うように目を見開いていた。
「…なんだ。その目は」
「意外と…女の子らしいのが好きなのね」
「…本当に、そう思ったよ」
「なんだ、2人して。私はれっきとした女だ」
セリーヌがむくれた顔で言う。それを見てトーマスが吹き出した。
「本当に君は魅力的だね、セリーヌ」
「…何言ってるんだか。どうせ他の人にも、そう言っているんだろう」
セリーヌがまた頬を膨らませる。その頬を両手で潰しながらトーマスはまた笑った。それから少し考えて、セリーヌの頭を撫でる。その手に抗うように彼女は首を振るが、その顔はあながち嫌とも言っていない。そのままトーマスはセリーヌを軽く抱き寄せ、そして離した。
「このワンピースを着てどこにいくか決めた?」
「…どこでもいいだろう」
「それはダメだよ。だって僕が買ってあげるんだからね。…だからさ、これを着て次の週末。サーカスを観に行かないか」
「…サーカス?」
「道化師が率いる雑技団みたいなものだよ」
その言葉にセリーヌはびくりと肩を震わせた。
「大丈夫だよ、サリー。その道化師じゃない。普通のやつだよ。パントマイムとかするやつだ。
あいつじゃない」
そう、憎々しげな目で宙を見つめた。
アイツが誰を指すか、セリーヌは知っていた。アリーも。そして勿論、トーマスも知っている。否。知らない人間などいない。
『道化師アルバート』の名を。