一灯を下げて暗夜を行く(4)
「お前がいるから予定が狂う」
セリーヌがトーマスにそう言った。
今3人は町の中でも1番人気の洋服屋に来ている。トーマスが彼女達にどうしても見たいものがあると言ったためだ。どんな重要なことだろうと思えば、この始末である。彼はレディースコーナーで立ち止まり、あれでもないこれでもないとセリーヌに合う服を探している。
「いいじゃないの、セリーヌ。新しい洋服が増えるのはいいことよ。それだけ女らしさもあがるってものよ」
「…こんなきらびやかな服着て行くところもないだろう」
「あら。そんなことないわ。ねえ? トーマス」
「そうだよ、セリーヌ。これなんかいいじゃないか」
そう言って赤いサテンのワンピースを彼女に渡した。店内に設置されたライトに照らされキラキラと光るそれは、セリーヌの心をときめかせる。通常より少し黒めの赤が彼女に血を連想させた。膝丈まであるこのワンピースなら、下に何を着ていても見えることはない。最悪、このままその行為を行っても色は霞んで見えなくなるだろう。
仕事にぴったりの服。
そこまで考えてセリーヌは首を横に振った。同じことをトーマスが考えてないと確信をもって言えるだろうか。
いつかこの服は買うかもしれない。その方が今よりいっそうカモフラージュは楽だ。だけど。
そのための服をトーマス選んでもらうことは、セリーヌには簡単に頷けないことだった。