一灯を下げて暗夜を行く(3)
「いってくる」
そう言って扉を開ける。遠くの門の前に人影が揺らめく。黒いスーツに緑色の傘をさしたその影は、彼女らを見て大きく手を振った。その拍子に傘がバランスを崩し慌てふためいている。
「本当に彼、貴女にお熱だわ。アタシお邪魔じゃないのかしら」
「私からしたらアイツが邪魔だな」
「セリーヌったら。そんなこと言いながら、前よりお洒落してるくせに」
「…気のせいだろ」
ふいと横を向いてセリーヌは呟いた。そんな彼女をアリーは微笑んで見つめる。本人は気づいていないが、頬が赤く染まっている。
ウブなのねえ、とアリーは心の中でも微笑む。セリーヌ、トット、アリーの3人の中で、唯一恋人がいたことがある彼女は、ほんの少しだけお姉さん気取りなのだった。
「おはよう。サリー、アリー」
「おはよう、トミー。なんだかこの呼び方だとみんな兄弟みたいね!
トミー、サリー、アリー! 特にアタシ達は双子かもしれないわ」
「兄弟だなんて、やめてくれアリー」
「そうだよ、兄弟だったら結婚できないよ」
「…そこじゃないだろ、トミー」
否定はするものの、視線は横へと流れている。そんな彼女を見てアリーとトーマスは顔を見合わせほくそ笑んだ。2人が結ばれる日も遠くはない。そんな笑みだ。
すたすたと独り歩き始めるセリーヌ。そのあとを慌てて追うようにトーマスが駆け出し、それを後ろからアリーがにこにこと眺めている。
セリーヌの真っ赤な傘が雨音を響かせながらどんどんと先に進んでいく。
いつになく平和な1日の始まりだった。