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一灯を下げて暗夜を行く(1)
雨が降っていた。
それはしとしとと地面に痕跡を残す。それで埋めつくされた地面は、何処から濡れ始めたかなど全くわからない。
セリーヌは窓を少し明け、生臭い匂いと雨の湿った匂いが入り交じる微妙な風に鼻をしかめた。この匂いがあまり好きではない。だから夏の終わりは好きではないのだ。台風なんていうのがなければ、とても過ごしやすい季節だというのに。
寒いよりも暑い方が好きだ。寒さは感覚を鈍らせる。嗅覚、視覚、聴覚。その全てが若干鈍った中で行う"制裁"は少しの恐怖がつきまとう。常に恐怖と隣り合わせなのは間違いないのだが、このあとの季節は恐怖が四六時中後ろをついて回る。
そしてその恐怖に抗えない人達が、その恐怖の対象を殺していく。
そんな単純な話なのだ。