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手紙

アンジェリナ様へ


 季節は移ろい、エルドラゴ城の街路樹が木枯らしに揺れる時期がやってきました。今年の冬はとても寒くなるそうで、市民は冬を越す準備を始めています。

 

 あれから数ヶ月経ちました。国やあたしの周りでは色々な変化が起こっているんですよ。

 フィーナ様は正式にリチャード様を王配として迎え、ささやかだけど幸せそうな婚礼の儀を王宮の礼拝堂で済ませました。未だにフィーナ様を悪く言う一部の旧特権階級の人は居るけど、市民はみんな二人の結婚を祝福しました。

 リチャード様を支えてきたアイリ様は龍の守護者の証を返納して、故郷に戻って修道院に入ったそうです。式で近くに座ったあたしはアイリ様のお顔を見て複雑な気持ちになりました。みんなが幸せになるのって難しい事なんですね……。


 五郎丸様は、用意されていた「宰相」や「将軍」の役職に就かずに、「女王付き書記官」って言う何だか解らない官位を賜ったようで、一日中狭く暑い部屋でオベリスクストーンに向かっているそうです。王国軍の方はリチャード様が束ねて、「牧場ギルド」の方たちが王宮騎士団とギルドを繋ぐ橋渡しをしているそうです。

 元老院は廃止され、新しく二つの議会を作るそうでフィーナ様や五郎丸様はとても忙しそうです。国、冒険者、市民が一体となった政を目指すって言うのがフィーナ様の掲げられた目標で賛同する貴族も増えてきたみたいです。これからエルドラゴは腐敗から脱却して可視化された政治で民を導く事になります。ってこれ、五郎丸様からの受け売りなんですけどね。

 一緒に旅をしたユミさんはドラゴニュートの隠れ里に住む「村長」って方から許可を得て、王宮に仕えています。国の為に尽くすって仰ってくれてるそうです。

 五郎丸様と一緒に数人のギルドの方は王宮に入り役職を与えられました。「ギルド王朝」って皆の間では呼ばれ始めてるけど、まだ体制が統一された訳じゃないみたいです。まだまだ軋轢はあるみたいだけど、きっと上手くいきますよね。


 「Angel Halo」は功績を認められ女王陛下直属の機関として存続しています。機関長代理となった和美さんは「事務仕事は苦手ですわ」って言うのが口癖らしくすぐに何処かに出かけてしまい、日が暮れるまで帰ってきません。結局ケイさんとあたしで事務をこなしてます。まぁ出納の処理なんかは全部シーマさんが一瞬で計算してくれるから何も苦労はしていないんですけど。

 それと、あの日空から降ってきた小さな金色の龍は何故かあたしに懐いてしまって、今では王宮に帰らずに事務所の一角に居座っています。不思議とあたしには何となくあの子が言ってることとか思ってることが解るようでちゃんと言う事を聞いてくれてます。

 実はあたしも正式に騎士に叙任され、冒険者のランクも「ゴールド」に上げてもらいました。それと一緒に「デイモススレイヤー」の称号も賜りました。国に数人しか居ない「デイモススレイヤー」の称号をあたしなんかが貰って良いのか迷いましたが、「辞退するほうが失礼」と和美さんから言われて頂く事にしました。

 それとびっくりするような冒険者が二人も機関に入ってくれました。こちらからお願いしたわけじゃないんですけれど、善意と言うか慈善活動と言うか……。二人ともとても強い方なので、正直どうしたらいいか処遇に困っています。勿論アンジェリナ様の事を良く知っている方ですよ。



 ……。


 ……。


 フィーナ様も、五郎丸様も、和美さんも……みんな大人だから言わないけど……。

 ねぇ、アンジェリナ様。今、何処にいるの。こんなにみんな帰りを待ってるのに……。

 あたしには解る。アンジェリナ様は居なくなったりなんかしてない。

 あの日、空からファルシオンは戻ってきた。でもカラドボルグは戻ってきてない。きっとカラドボルグはアンジェリナ様と共にあって、今でもどこかで弱い人たちを救うために剣を振るっていらっしゃるんでしょ。

 でも、アンジェリナ様の力を必要としているのはエルドラゴの人たちも一緒。あたしの能力なんて大したこと無いけど、みんなで協力すればもっとたくさんの人たちの力になれるのに……。


 だからお願い、帰ってきて。




 また、手紙を書きますね。受取人不明で戻ってきちゃうのは解ってるけど、この届くことのない手紙を書き続ける事が、あたしにとっての贖罪。あの日、何もできなかった悔しさを忘れることなく、アンジェリナ様が守ってくれた国の為に、あたし頑張ります。アンジェリナ様をお探しするのは、新しい国政が安定した後になっちゃうかもしれませんが、赦してください。


 いつまでも、お帰りをお待ちしています。

      

                                あなたの機関の武具担当 ナオ

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