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第八話 喫茶店



 街に戻ってきて早速、喫茶店に入る。

 サーシャは待ち望んでいただけに、さっさと席に座りメニューを眺めていた。

 サーシャがケーキを注文し、アリカたちも続くように簡単な食事とデザートを注文する。


「……それでは、明日の団体戦の相手であるクラリアについて話していきましょうか」

「私、クラリアとは一度も戦ったことないんだよね。戦闘スタイルとか、簡単になら能力も知っているけど、詳しく教えてくれないかな?」

「そこは、リンが良く知っていますよね?」


 まあな、とリンは難しい顔で腕を組む。

 リンからすれば、一度負けた相手のことだ。

 彼女は戦闘面でそれなりにプライドが高く、その記憶を思い出すのは屈辱的なことなのだろう。


「あいつは……まだ本気じゃなかったらしいな」

「……そうですね。クラリアは、獣人ですからね」


 獣人や亜人のような種族は、人間の姿のままでは全力を出せない。

 獣人であれば、獣化といった力を持っており、一時的に獣だったときの力を体に宿すことができる。

 体も変化があらわれるものもいて、何よりクラリアは最強の狼の種族、ブラッディウルフの獣人である。

 それらをアリカが説明すると、ネイリッタもコクコクとうなずく。


「ブラッディウルフかぁ……。確か昔魔王が飼っていたペットがそんな種族だったよね?」

「そうですね。だからクラリアは、よく裏切り者って馬鹿にされていましたね」


 アリカも比較的学園では下のほうに位置するため、そのような声は耳に入りやすかった。

 クラリアはそういったものに特に興味を持っていないため、例え聞こえても何も言い返さないのが、余計にいじめの対象になりやすいのだおる。


「あたしが戦ったときはさ、あいつ斧をそれこそ短剣のように扱う奴だったんだよ。普通に打ち合っていたら、あたしの手が痺れてどうにもならなかった。んで、距離を開ければ咆哮だ」

「……咆哮。厄介な技ですよね」


 ブラッディウルフの彼女は、その強化された声で相手の体の動きを止める。

 音に体が驚いて硬直している間に、一対一ではまずどうにもならない。


「ふむふむ。それは耳から入ってくるんだよね? だったら、耳を塞げば問題ない?」

「そうですけど、いつ発動するのかわからないから、どうしようもない部分はありますよ?」

「それはまた後で考えれば良いんだよ。……あとは、戦闘能力自体はどうかな?」

「……やばいぜ。まずあたしが二人に分身できたとしても、勝てる気がしなかったな。動きは素早いし、力は化け物級。かといって中距離には、土魔法のゴーレム精製、錬金、アースハンドで対応してくるってんだ。正面からぶつかりあっても、勝つのは難しいぜ」

「だけど、ルールは首輪とりだよね? だったら、隙をついて……どうにかできるんじゃないかな? クラリアって一人で申し込んでいるし……」


 団体戦のルールは、この前行った首輪とりだ。だから、ネイリッタのように考えるものもいるだろう。


「……あいつ、目を閉じていても耳で反応できるんだよな。目潰ししてその隙に奪うってのも、光とかで視界を奪っても無理なんだよ」

「耳も潰す必要があるんだ……うーん、ちょっと強すぎるよね」


 ネイリッタもさすがに眉間に皺を刻んでいた。


「……だって、クラリアって確かどっかの騎士隊に参加しているんじゃなかったでしたっけ?」

「……クロッタ部隊だぜ」

「く、クロッタ部隊!?」


 ネイリッタが口を大きくあけて叫んだ。

 リンがしーと指を口元にやる。


「あんまり公にはなっていないけどな……。姉さんがうっかり口を滑らしたんだよ」

「うん。次回の団体戦でがんばろっか!」

「諦めちゃダメです!」


 ぴしっとネイリッタを指差し、アリカはじっと睨む。

 予想以上に声が出てしまい、周囲にいた人から奇妙な目を向けられちょっとばかりの恥ずかしさがあった。

 しかし、それでもアリカはしっかりと言い切る。


「相手が強いからって、諦めていたらダメだと思います」

「けど、厳しくないかな?」

「この先……ぶっちゃけるなら、この前のような化け物級の襲撃者と戦うこともあると思います。自分の命が危険な状態でもやらないといけない場面もあるんですから……このくらいキッと乗り越えられると思います!」


 アリカが言い切ると、困ったような顔になるネイリッタ。

 リンは腹を抱えるようにして笑いだす。

 それにアリカは頬を膨らませる。


「なんですかー」

「いや、相変わらずアリカは熱血ちゃんだなって思ってよ」

「だって、そうじゃないですか? クラリアと戦える機会なんて滅多にないんですから、むしろラッキーなんですよ! ここで勝てれば学園での評価も一気にあがります。負けても、当然とみんな思っているんですから……私たちにマイナスなことはないんです。前に進むのに、ネガティブはダメです!」


 アリカが拳を構えると、ネイリッタは呆けた顔のあと、口角をあげた。


「……わかったよ。だったら、私は午後ちょっと色々と対策をたてるための装備を買いに行ってくるね」

「……え? 手伝いますよ?」

「ううん。その間、アリカ様はあることをして、訓練を積んでね」

「あること?」


 訊ねるとネイリッタが手招きする。

 顔を近づけると、耳を舐めるようにネイリッタが囁いてきた。


「耳栓だよ。咆哮対策のね」

「……できるんですか?」

「このまえエルフ喫茶に行った時に、魔道具に詳しい人がいたんだよね。その人なら、もしかしたら何か対策をたてられるかもしれないんだ」


 にやりと笑うネイリッタを信じるしかない。


「わ、わかりましたから手を離してください」


 顔をがしっと掴まれてしまわれ、アリカは必死に逃げようとする。

 しかし、身を乗り出している態勢が悪い。脇腹が圧迫されるような姿勢であり、苦しい。


「耳、舐めても良いかな? 良いよね?」

「ダメに決まっているじゃないですか!」


 ネイリッタが顔へと手を回してきて、それを引き剥がそうとするも彼女は興奮した声をぶつけてくるだけだ。


「ああ、困っているアリカ様も可愛いなぁ……食べちゃいたい」

「何で私は困らせるんですか!」

「だって、からかうと必死に反応して可愛いんだもん」


 ならば、と毅然な態度をとると、普通に耳に息を吹きかけてくる。

 我慢していると、それがまたネイリッタには受けたのか、手を離して身をよじっている。


「ま、こいつをからかうと楽しいのは同意だけどさ。あんまりあたしのアリカをいじめるなよな」

「し、嫉妬!?」

「ちげぇよ!」

「……」


 じーっとサーシャが目を細めて、こちらを見ている。

 彼女も話に加わりたいのだろうかと思っていたが、視線とは裏腹にサーシャの手がアリカのケーキへと伸びていた。


「ちょ、ちょっと! 新しいの頼んでいいですからこれはダメです!」

「なら、そのイチゴ食べて良いじゃろ。わざわざケーキの横におきおって」

「これは最後に食べるんです!」

「まったく……イチゴを最後に残しておくなんてわかっていないのう」

「……ふん。イチゴを最後に食べることで、それまでの生クリームで甘くなった口を元に戻せるんです。わかりますか?」

「けど、あたしは先に食べる派だなぁ……」

「えぇ!? リン様、普通最後じゃないかな!?」


 ここで、二手に別れた。

 アリカとネイリッタは視線をあわせ、こくりと頷いた。


「なんでですか?」

「そうだよ。最後にイチゴ食べたほうが絶対にいいって」

「だってあたし、姉ちゃんにイチゴだけ持っていかれたことあるし」

「……納得しました」

「わしはな。よく人の好きな物を奪い取るからじゃ。自分がやるのだから、人もやるじゃろ? やられたら不快じゃからな」

「サーシャはそもそも人にやらないでください!」


 アリカは肩で息をするようにしながら、席に座りなおした。

 しばらくして、ネイリッタが店を離れる。

 サーシャが食べたケーキの量は凄まじかったが、アリカはそれについては特に考えることはない。

 それから、アリカたちも近くの店で安眠グッズを販売している店に行って耳栓をいくつか購入した。

 二人とも貴族であるため、金についてはそこまで意識したことはない。


 学園へと戻ってきて、訓練場へと向かう。

 

「わしはもう寝るから、後は頑張るのじゃぞー」

「また寝るんですか!? ここ最近毎日暇さえあれば寝てないですか!?」

「どうせわし、引きこもりじゃしー」


 最近貴族の間で多い引きこもりであったが、まさか自分の魔法がそれになるとは思っていなかった。

 しかし、今はサーシャを外に連れ出すための作戦をたてる時間はない。

 買ってきた耳栓をつけてみると、随分と音が聞こえなくなってしまった。

 サーシャのうるさいいびきも聞こえなくなりそうで、これからはこれを着用して寝ようとさえ思えた。


「これ、大変ですね」


 耳栓をとって、リンに声をかけると、彼女も耳栓をつけたところであった。


「……あんまり聞こえないな」


 リンが耳栓を外して顔をこちらへと向けてくる。

 アリカはしばらく耳栓をしたたままで軽く移動や剣を振ってみる。

 確かに、あまり影響はないのだが、それでもやはり耳に頼る部分もある。


 そういった部分で、戦闘に問題が生じそうだ。

 何より、一番は魔法だ。

 魔法というのは周囲に突然放たれてしまうことがある。

 背後などの異常は、耳で聞き取るしかないこともある。

 耳栓をしたままリンに魔法を放ってもらう。

 耳栓がないときならば、空気が凍り付いていくのが音でわかったが、耳栓をしてしまうとまるでわからなかった。

 もちろん、ある程度発動すれば温度の変化でわかる。だが、そこまで発動してしまえばもう手遅れだ。

 一番恐ろしいのは、連携がとれないことだ。

 声がまるで聞こえないため、あらかじめたてていた作戦と別の行動をするとき、連携が取れないのだ。


「そんじゃ、少し実戦やってみるか?」

「……わかりました」


 アリカは耳栓をつけて、剣を抜いた。


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