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第七話 チーム


 迷宮へと入ったアリカは短く呼吸をする。

 地上よりも僅かに温度がさがり、吐く息が暖かく感じられた。


 初めてのことにアリカの期待も高まり、気分が向上する。

 だからといって、戦いに魅了されるような心ではダメだ。

 おさえつけるように両手の剣を触り、先頭を切って歩き出す。

 迷宮の入り口、小さな穴のような場所をすぎる。


 途端に周囲が暗くなるが、ほのかにある魔石の明かりによって、視界は保たれる。

 思っていたよりも広い通路は、大型の魔物でも余裕で歩けるような幅である。

 それはおそらく、この迷宮にはこのサイズの魔物も普通に歩く、ということを表しているのかもしれない。

 先頭を歩くのは、猫背でぶーぶー文句をいうサーシャである。

 罠を探知する必要があるため、サーシャを先頭に自由に歩き回っていく。


「ふむふむ……結構迷宮というのは人がおるものなんじゃな」

「そうですね」


 サーシャのすぐ近くを歩き、アリカは常に警戒していく。

 学園の生徒とは関係のない多くの人間が、迷宮にはいた。

 お互いに邪魔をしなければ、横を過ぎるだけの関係だ。

 二人に危険がないよう、不意打ちされないことを意識しながら、アリカは剣を触る。


「張り切っておるのー」


 のんびりとしたサーシャの声に、アリカはむっと頬を膨らませる。

 自分たちがこれだけ気張っているというのに、この魔法はなんとのん気な。

 アリカは感情をおさえながら、短く伝える。


「初めての団体戦ですよ? ……ここでいい成績を残しておきたいじゃないですか」

「だからといって、そこまで何でもやろうとしなくても良いと思うがのうー。基本おぬしぬけているところもあるんじゃし」

「な、なんですか。私頑張っているんですから邪魔しないでくださいっ」


 リーダーとしての威厳がなくなってしまう、とアリカは後ろの二人を見やる。


「リン様ぁ、私暗いの怖いんだ。くっついてもいい?」

「許可出す前にはりつくなよっ、暑苦しいな!」

「いいじゃない、いいじゃない……私、怖いんだもん」

「だもんじゃねぇよ。あたしに甘えたって意味ねぇだろ。そういうのは、おまえのファンにでもやってやれよ!」

「私、リン様のことずっと見ていたんだ。知っている?」

「知りたくなかったっての!」


 仲良さそうに二人がくっついているのを見ると、これから大会というのに何をしているのかという感情がふつふつと沸きあがる。

 もう少し集中して、と伝えようとアリカが口を開いた瞬間、


「なんじゃ、嫉妬かの? わしがくっついてやろうか?」


 サーシャが口元を隠すようにして、ぷぷぷと笑っていた。


「遠慮しますっ。ていうか、嫉妬じゃないです。魔物が来たら大変だなと思って見ているだけです」

「そうだよっ。おいネイリッタ! こんな状態で魔物が襲い掛かってきたらどうするんだよ!」

「そのときは……一緒にやられるというのも良いかも」

「ざっけんな!」


 普段はアリカをからかうことの多いリンだったが、ネイリッタにはさすがに突っこまずにはいられないようだった。

 強打の張り手をネイリッタにくらわせると、彼女は叩かれた肩を触る。


「あ、わり、強くやりすぎたか?」

「ううん。……むしろ良い」

「……へ?」


 ネイリッタはさらに息をあらげ、それから唇を震わせる。


「私、どうしてリン様を慕っているかわかる?」

「……知らんよ。つかなんであたしはおまえみたいな変態に好かれてんの?」

「それは……模擬戦のとき、私をボコボコにしてくれたからなんだ! もっと殴って!」

「おい迷宮の魔物! こいつを食べてくれ!」

「リン! それではメンバーが足りません! 人身御供になってください!」

「親友に生贄になれって言ったよな!?」


 なんてぎゃーぎゃー騒いでいると、迷宮の壁からもこっと人型の魔物が出現する。


「うむ、ゴブリンじゃな」

「で、でか!」


 目と口を精一杯あけて、アリカは言い切った。

 ゴブリンは人間の子どもくらいなのだが、現れたゴブリンは大人二人分くらいはありそうなサイズだ。

 右手には生まれたときに所持していたと思われる棍棒をもっていた。

 ゴブリンは、ジッと見てきて敵と認識したのか口角をつりあげた。


「そんじゃ、最初はどうやって戦うんだ?」


 リンが剣を構える。


「ろ、ロクに決めていませんでした!」

「それでは、アリカ様、リン様、私と……一人ずつ指示を出すのかをやってみよっか」


 ゴブリンはその段階で胸を叩くようにして威嚇をする。

 まるでゴリラ系の魔物のようであった。振りかぶった棍棒を見て、


「それじゃ、最初はアリカ様!」

「わ、私ぃー!?」


 リーダーなのだから当然だ。

 それでもアリカはあまり考えていなかったために、ゴブリンの棍棒をとりあえず全員が避ける。

 距離をあけたところで、アリカはじっとゴブリンを見た。


「それでは……私とリンで前衛をやります。ネイリッタは、後衛からサンダーショットで援護。並行して、ファイアブレスをチャージして……それでえっと……あとは!」


 言いかけたところでゴブリンの拳が落ちてくる。

 動きはそれほど早くはないが、まともにくらえば骨がいくつ折れるかわからない。

 転がりながらかわして、剣を抜く。


「あたしはどうすればいい!?」


 ゴブリンの側面に回り、一定の距離で剣を持つリン。


「わ、私と逆方向から攻撃してください!」

「了解!」


 ゴブリンを左右から囲むようにして攻撃していく。

 サンダーショットがたまにゴブリンへとあたると、ゴブリンはよろめく。

 リンも氷魔法を剣にまとわせて斬りつけ、そのたびにゴブリンの動きが鈍っていく。

 アリカは二人ほど火力はないが、何度も同じ場所をきることで、その足の動きを阻害していく。


「たまったよ!」


 後方にいたネイリッタが叫び、アリカが片手をあげる。


「私たちが離れますから、その隙にぶっ放してください!」

「わかったよっ」

「あっ、リン! 思いっきり攻撃しておいてください!」

「了解!」


 リンが氷を剣へと一気にまとわせたところで、ゴブリンの顔がそちらを向く。

 アリカはゴブリンの注意をひきつけるために剣を何度も叩きつける。

 終えてから、肺一杯に空気をため、体を思いっきり弾くように跳ぶ。

 

「ファイアブレス!」


 ネイリッタがそのタイミングで魔法を放ち、ゴブリンの全身を焼くと、魔物は泡のような物を出しながら消滅した。


「や、やりましたね!」

「それじゃ、次の魔物は誰が指示を出す?」


 剣についた血を拭いながら、リンが顔を向けてくる。

 アリカはびしっとリンを指差した。


「次お願いしますね」

「あたしかー。正直、そういうのは得意じゃないんだけどな……」

「どんな命令でもしっかりこなすよ。靴舐めれば良い?」

「……今あたしは、そのままおまえの頭を踏み抜いてやろうかと思ったんだけど」

「ご褒美だよ!」

「そうかぁ……」


 たははとリンは渇いた笑いを浮かべる。

 そんなリンにぎゅっと抱きつくネイリッタ。


「二人とも! ここは危険な場所なんです! 遊んでないでほら、次行きますよ!」

「そうだぜネイリッタ」


 ネイリッタを引き剥がしたリンが、アリカの前を行く。


「まったく、おぬしたち早くしてくれないかのう。さっさとケーキ食べたいんじゃよ」

「わかっていますよっ」


 道を歩いていくと、再び壁からゴブリンが浮き上がってきた。

 けたたましい威嚇をあげ、アリカたちを睨みつけてくる。

 さきほど仲間がやられていたところでも見ていたのかというほどに、ゴブリンの両目は鋭い。


「んじゃ、全員全力でやるぜ! よし、突っこめ!」

「それ指示ですか!?」


 リンの指示は、微妙なものだ。

 アリカも自分が完璧とは思っていなかったが、それでもリンは大雑把すぎた。

 流れはアリカと同じような感じであったが、戦闘での個人が考えることが多く、より複雑になれば連携は厳しいものだ。


「リン、真面目にやってください」

「やってるっての。あたしは体動かすのが専門だから、細かい指示は無理なんだよ」

「さすがリン様」

「さすがじゃないです! 最後はネイリッタ、よろしくお願いしますね!」

「……ふざけてやって、アリカ様とリン様になじられるのも……悪くない?」

「悪いです!」


 ネイリッタに一抹の不安を抱えていた。しばらく歩くと、巨大なウルフが出現した。


「……これは、ちょっと厄介そうですね!」


 新たな魔物の出現に、警戒半分、楽しさ半分の気持ちで剣を抜く。

 両手の剣を構えて、指示を待っていると、ネイリッタがさっさと一撃目のサンダーショットを放った。


「アリカ様、ウルフは私に集中しましたので、まずは機動力を奪ってね。リン様はウルフから私を守って」

「わかりました!」

「失敗しても良いか?」

「私、魔物にやられるのは趣味じゃないんだ。間違って私に攻撃してくれるのは構わないよ!」

「……相変わらずだな!」


 リンがウルフの前に現れ、剣を振りぬく。

 ウルフは体を軽く動かしてかわし、これで完璧に前の二人に意識が向いたようであった。

 その脇から接近するアリカに気づいたのは、アリカが一撃を加えてからだった。

 アリカに顔を向けたウルフだったが、すぐにその顔にサンダーショットが当たる。


「あははっ、苛立って仕方ないよね? 敵はいっぱいいるのに、集中できない……あははっ! ウルフの心を考えただけで楽しいね!」

「……ちょっと怖いです」


 魔物にはドSで、リンにはドM。

 そんなネイリッタに頬をひきつらせながら、アリカは右足を使えないようにきり続けた。

 そこからは簡単だ。

 他の足も弱らせ、もう満足に踏みこむことができなくなったウルフを、ファイアブレスで燃やした。

 相手の心を完全に折る。ネイリッタの恐ろしい戦いぶりに、アリカは剣をしまいながらネイリッタを見た。


「……ネイリッタ。あなたがチームの頭です!」

「それはつまり、私とリン様の体が繋がっているということだね!?」

「ちげぇーだろ! おまえの指示は、相手の策を警戒し、ぶっ潰していく見事なもんだった。確かにこりゃあ……敵からしたらたまったものじゃねぇな」

「ふふん、あの程度余裕ね。もっと褒めて褒めてー」

「ただ、ネイリッタは少し調子に乗る部分がいけませんね」

「それを怒ってもらうのもまた嬉しいんだ」

「あたしは怒らねぇからな……」


 疲れ気味のリンに、ネイリッタが抱きついている。

 リンはそれをひっぺがす気も起きないようであった。

 やたらと接触したがる子だが、ネイリッタの先ほどをねぎらう意味もこめて、アリカは何も言わなかった。

 迷宮での狩りはそこで中断し、帰りのフィールドで多少魔物と戦う。

 敵が複数の場合もネイリッタの指示は的確だった。

 

 どの魔物を最初に潰すかを考えれば、すぐに囮役を用意し、じわじわとなぶる。

 例え数の有利がなくても、ネイリッタが牽制して数の有利を作り出し、常に余裕をもって戦えていた。

 アリカは予想以上にスムーズに戦えている現状に、頬が緩む。

 明日の団体戦も、これならば勝てるかもしれない、と。


「それじゃあ……街に戻りますか!」


 アリカの声に、みなが頷いた。


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